魔法少年はモテない
昼休み。柿木は友達の南条と教室のかたわら、窓際で席を寄せ合い昼食をとっている。 柿木は窓の外のどんよりとした空を仰ぎながら、左手に持ったサンドウィッチを一口かじる。ろくに噛みもしないで飲み込んだあと、大きくため息をついた。本日七度目。昼休みになってから三度目の。 南条はわざとそれを無視して、弁当箱のトマトにフォークを突き刺した。眉をひそめて、鼻をつまみ、トマトを口の中に放り込む。 それを奥の歯で噛み砕くとぷちゅっと潰れて、汁が口の中に広がる。南条の顔がさっと青ざめる。水筒のお茶で残ったトマトを流し込んだ。 南条がトマトを食べるときはいつもこうだった。大嫌いなのだ、トマトが。 その様子をじーっと見つめている柿木。南条が柿木に視線を向けると、彼はあわてて窓の外を見る。まるで自分は見ていないとでも言いたげな表情を取り繕って。 それからもう一回ため息をつく。 すると南条もため息をつく。観念したのだ。あからさまな柿木の態度に無視を決め込もうとしていたのだけれど、あまりにもしつこいので観念したのだ。 「どうかしたのか?」 南条の言葉が終わらないうちに、柿木はパッと目を輝かせて振り向く。呆れた顔の南条を見ると、ハッとして、悩みがあるような儚げな表情を顔に作った。 三秒ほど間をあけて、それからゆっくりと口を開く。 「俺ってさあ、魔法 使えるじゃん。なのになんでモテないんだろう」 真剣な顔で突拍子も無いことを言い出す柿木。しかし、南条はあわてることはない。むしろ、落ち着いていた。 柿木と南条は幼馴染だからお互い知らないことがないといえるほど何でも知っている。 だから、柿木が魔法を使えることを南条はしっている。 それはつまり、柿木のマヌケにも聞こえる発言は戯言虚言ではなく、本当だということになる。 柿木はいわゆる超能力でいうところのサイコキネシス――ものを動かしたり、浮かせたりする魔法や自由に炎を生み、自在に操る魔法を使うことができた。 その彼の魔法はマジックショーのようなインチキとは比べようもない迫力とリアリティーのあるものだった。 「なあどう思う?」 机に頬を乗せ、うなだれた様子の柿木。 南条は眼鏡の位置を直しながら、柿木をやや見下ろすように言う。 「そりゃあだって、みんな使えるからな」