カレーのにおいに誘われて おまけ
日を改めた後日。私と理子さんは二限目の講義をサボって正門横のベンチに並んで座っていた。 膝の上にはカレーのトレイがある。先日、食べることのできなかったこれを食べるためにカレー屋さんがやってくるのを待ち構えていたのである。 私と理子さんは期待に満ちた表情でカレーを口の中に放り込む。瞬間、顔がとろける。鼻を突き抜けるスパイシーな香りと同時に口中に広がる濃厚な味わいは私たちの期待を大きく上回る味であった。 ふいに理子さんに顔を向ければ瞳からポロポロと大粒の涙がこぼれているではないか。私は予想だにしない光景のために手に持っていたスプーンを落としてしまった。 しかもおろおろしてしまって声を掛けることもできない。 そんな私をよそに理子さんは感慨深げにつぶやいた。 「……生きててよかった〜」 どうやら涙が嬉しさからくるもののようで胸をなで下ろすと同時にキュンと胸を締め付けられる。 私はおかしいのだろうか。ことあるごとに理子さんにときめいている。自問自答を繰り返しても答えはでない。 そんな様子に気づいたらしい理子さんが声をかける。 「どうしたの?」 そう言いながら首をかしげる姿すら愛らしいと思えてしまう。 私は逡巡した後、彼女に尋ねた。 「こんなことを言って軽蔑して欲しくはないのですが、私は理子さんの一挙手一投足にときめいてしまうのですがおかしいのでしょうか?」 直後、私は視界を失う。顔の正面には柔らかな感覚があり、逆に後頭部と首には絞めつけられる感覚があった。私は理子さんの胸に抱きしめられていた。 「私だってミキちゃんの上から下までなにからなにまでにキュンとするのよ」 この時、理子さんがはにかんだ笑顔をみせていたことは彼女の胸の中にいた私には知る由もなかった。