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反逆戦争 第一話「終戦

 およそ二年前にはじまったマルズとゴネールの惑星間戦争は終わりをむかえようとしていた。
 最後の防衛拠点パオロ。背後に本星を控えたパオロの陥落は事実上の終戦を意味している。
 今まさにパオロ周辺宙域は戦火の中にあった。
「前に出るんだよ!」
 スピーカーを通してコクピット内を怒声がめぐった。それはマクラカン大尉の叫びだった。
 最終防衛ライン上に位置するマクラカン大尉下四機の人型機動兵器プレイドの目前まで敵は迫っていた。
「負け戦じゃないか」
 そうつぶやいたのはトゥール・ブック二等兵曹であった。パイロットとして卓越した技術をもってはいるが、兵士としは気の抜けた男だった。
 しかし、それもトゥールの入軍した背景を語ればしかたのないことなのかもしれない。
 始まりこそ互角であった二国間の勢力は次第にマルズ劣勢へと変わっていった。
 本星国民にすら敗色濃厚という空気が流れ始めた頃、学徒動員令がだされた。およそ半年前のことである。
 トゥールは学徒動員令により徴兵された子供の一人である。軍学校に通っていたわけではなく、志願兵というわけでもない。彼の思想に愛国心というものもないから、それは嫌悪するものでしかなかった。
 運がよかったのか、わるかったのか。パイロットとしての才能を開花させたトゥールがこの半年であげた戦果は並のものではなかった。
 しかし、一兵による局地的な戦果だけで大勢が動くわけもなく、マルズ軍は最後の戦いに挑んでいた。
「聞こえているんだよ、兵曹!」
 トゥールのひとり言はマクラカンの耳に届いていた。
「本当のことでしょう? いまさら死ぬなんて馬鹿ですよ」
「いいから前にでるんだよ!」
「了解! 隊長、了解!」
 マクラカン隊長がそう言えば従うしかないのが軍隊だ。悪い人でないことをトゥールらは知っているが軍人然としているところだけは咬み合わないのだった。
 投げやり気味にトゥールら学徒兵三人はため息を漏らしつつ前進する。
 直後。コクピット内に警戒音が響き、閃光がはしった。三機の直上をビームが通り過ぎ、背後の母艦ヨツエルを直撃した。光が拡大していき、艦全体を包み込んだ。クルーが退艦する間もなくヨツエルは爆発した。その爆発は巨大な光球となって拡がりトゥールらに迫ってくる。
 テールノズルをいっぱいに噴かし全速で離脱するも、列の最後にいたムットーニ機が光に呑まれた。断末魔すら叫ばせてはくれなかった。
 トゥールは呆然と爆発を見ていた。
 仲間の死というものはなにもこれがはじめてというわけではない。しかし、あまりのあっけなさに言葉がでなかった。
 横にいるマトッシュが思わず息をのんだのは爆発に巻き込まれていたのは自分かもしれなかったからだ。ムットーニ機との距離は一〇メートルと離れていなかったのだ。
「ムットーニ!?」
 トゥールは消え行く光芒の中にムットーニのパイロットスーツが流れるのを見た気がした。彼は機体をそこへ前進させる。
 またビームが三本ひかった。アロンソ、マトッシュ両機を直撃、撃墜した。三本目だけが宇宙の暗闇に消えたのはトゥールが機体を前進させたからだった。
「ムットーニが助けてくれたの!?」
 敵のビーム攻撃をかわしたという偶然はトゥールにはそう思えた。
 トゥールは奇妙な幸運に感謝した。しかし、ムットーニの姿を見失っていた。彼は先程の宙域を拡大してみたが見つけることはできなかった。
「本当にいたのか?」
 ますますムットーニが助けてくれたのだと思えた。
 続けざまに三機が墜とされ、マクラカン小隊は隊長とトゥールの二機だけになっていた。母艦さえも失っている。
 トゥールらの右方の宙域では太いビーム光が要塞パオロの外壁に突き刺さって、火をあげている。どこの宙域でも味方機らしい爆光があがっている。味方の戦線もちりぢりのようだった。
「隊長」
 トゥールの呼びかけにマクラカンの返事はない。代わりに荒い息遣いだけが聞こえた。
 負傷したのか。そう思ってトゥールはマクラカン機へ顔を向けたが、少なくとも機体には外傷はないように見えた。
 すぐにその息遣いのわけがトゥールにはわかった。マクラカンはいさんで特攻をかけようとしているのだ。自分の部下が三人もやられれば冷静でいられなくなる男だった。
 トゥールがあわてて機体をマクラカンに寄せ、腕を掴んだ。振り返ったマクラカン機のカメラアイがトゥールを睨んだように見えた。
「どうするつもりです?」
「アロンソがやられたんだぞ!」
「無茶ですよ。二機でなにができるってんですか」
「死なばもろともだろうが!」
「そんなことを言って」
 言い争う二人の間をビームがはしる。
 ゴネールのプレイドが一機接近してきていた。
 ゴネール軍のプレイドには角があり、角なしから三本角までの四つの階級がある。
 接近する敵機は一角機であった。
 その敵機の持つライフルからビームが放たれる。トゥールはマクラカン機を突き飛ばした。
「なんだ!?」
 トゥールのとつぜんの行動に困惑するマクラカンの目の前をビームがかすめていった。代わりにトゥール機の左腕が消し飛んだ。熱でとけた装甲はまるでただれた皮膚のようだった。
「さっきのやつかっ?」
 しかし、言ったトゥールがそれを否定する。接近の仕方も攻撃もどこか雑だった。あの正確な射撃をしたパイロットとは思えなかった。また一角機レベルで正確な狙撃ができるとは思いたくなかった。
「うっとしい!」
 叫んだわけではない。トゥールの意識がそういったのだ。
 トゥールが引鉄をひけば、その動きに連動してプレイドのライフルから三発の弾丸が撃ちだされる。彼はバースト機能を使わなかった。また引鉄をひいた。
 三発ずつ二条の弾丸は光の尾を曳き、宇宙を裂くように飛んでいく。
 一射目が敵機の横をかすめたころ、トゥールはもう一度トリガーをひいた。
 トゥールの予測射撃は正確であった。敵機が二射目をさけたその軌道上に三射目は撃ちこまれていた。
 回避運動後の一瞬の隙。そこを狙って撃ちこまれた弾丸の避けようはない。
 腹部を直撃し炸裂する。しかし、爆発するまでには至らなかった。
「ちっ」
 トゥールは舌打ちした。ビームライフルならばこんなことにはならないのに、と。
 マルズ軍はビーム火器が一般兵までまわってこないのだ。
 トゥールが放ったとどめの一撃は被弾部を正確に捉えた。敵機は爆発し閃光が拡がる。
 次の敵の影はなかった。二人はいつのまにか戦線から少し離れた場所に流れていた。
「もう終りですよ」
 パオロの港口からゴネール軍が何機も中に入っていくのが見えた。もう三〇分としないうちにパオロは陥落するだろう。
 それでもマクラカンは息巻いきている。
「子どもがいるんでしょうに!」
 いつか聞いた話を思い出してトゥールが言う。戦争がはじまった頃に生まれ、この二年家に帰れずにいるマクラカンはその顔を見たことがなかった。
「部下の敵もとれない親父が!」
「父親は父親でしょう? 親の顔も知らずに育つなんて不幸です」
 それは自分が生まれる前に父親を亡くしたトゥールの切実な思いであった。
 マクラカンは言葉につまる。トゥールにそういうことを言われてしまえば。
 パッと宙域を包むように光があがり、二機を照らす。パオロからあがったその光は停戦を示す信号弾だった。
「負けた!?」
 マクラカンが言えばトゥールが答える。
「終わったんですよ」
 長く続いた惑星間戦争は終局をむかえた。
 しかし、この物語は始まったばかりである。

 そして、二年の時が流れた。

 
 

sage
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